3・29文科省通知に対する日本弁護士会、 神奈川県・千葉県・和歌山県弁護士会の会長声明
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- 埼玉弁護士会・朝鮮学校に対する補助金交付に関して公平な取り扱いを求める会長声明 (2016・4・22) *本誌37号に掲載
- 東京弁護士会・朝鮮学校への適正な補助金交付を求める会長声明(2016・4・22) *本誌37号に掲載
- 福岡県弁護士会・朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明(2016・5・13)
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もくじ
日本弁護士連合会 2016・7・29
朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明
文部科学大臣は、本年3月29日、朝鮮学校をその区域内に有する28都道府県知事宛てに、「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」を発出した。
同通知は、朝鮮学校について、「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」という政府の認識を示したうえで、対象自治体の各知事に対し、大要、「朝鮮学校の運営に係る上記のような特性も考慮の上、補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討と補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保」を要請している。
しかし、補助金の支給権限は地方自治体にあり、その判断と責任において実施されるべきところ、同通知は、具体的な事実関係を指摘することなく、上記のような政府の一方的な認識のみを理由として、数多くある各種外国人学校のなかの朝鮮学校のみを対象として補助金交付を停止するよう促しており、事実上、地方自治体に対して朝鮮学校への補助金交付を自粛するよう要請したものと言わざるを得ない。このことは、同通知を受けて、実際に補助金の打ち切りを検討する自治体が出てきていることからも明らかである。
朝鮮学校に通学する子どもたちも、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利である学習権(憲法26条第1項、同13条)を保障されている。そして、朝鮮学校は、六・三・三・四を採用し、学習指導要領に準じた教育を行っている。そもそも、朝鮮学校は、歴史的経緯から日本に定住し、日本社会の一員として生活する、朝鮮半島にルーツをもつ在日朝鮮人の子どもたちが通う学校であり、民族教育を軸に据えた学校教育を実施する場として既に一定の社会的評価が形成されてきた(大阪高裁平成26年7月8日)。
それにもかかわらず、子どもの教育を受ける権利とは何ら関係を持たない政治的理由により補助金の支給を停止することは、朝鮮学校に通学する子どもたちの学習権の侵害につながるものである。
また、朝鮮学校に通う子どもたちが、合理的な理由なく他の学校に通う子どもたちと異なる不利益な取扱いを受けることは、憲法14条などが禁止する不合理な差別的取扱いに当たり、憲法の理念を反映させた教育基本法4条1項の教育上の差別禁止の規定にも反し、我が国が批准する国際人権(自由権・社会権)規約、人種差別撤廃条約及び子どもの権利条約が禁止する差別にも相当する。2014年(平成26年)8月に採択された国連人種差別撤廃委員会による最終見解においても、朝鮮学校への補助金の不交付等の措置に対し、「朝鮮学校に対し地方自治体によって割り当てられた補助金の停止あるいは継続的な縮小を含む、在日朝鮮人の子どもの教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する」旨の指摘がなされているところである。
当連合会は、全ての子どもたちが教育を受ける権利を平等に享受することができるよう、政府に対して、朝鮮学校に対する補助金交付の停止を、事実上、地方公共団体に要請している同通知の撤回を求め、また、地方公共団体に対しては、朝鮮学校に対する補助金の支出について上記憲法上の権利に配慮した運用を行うよう求めるものである。
2016年(平成28年)7月29日
日本弁護士連合会
会長 中本 和洋
神奈川県弁護士会 2016・8・17
学校法人神奈川朝鮮学園に係る補助金交付に関し、 政府通知の撤回及び適正な補助金交付を求める会長声明
1 当会は、2014年7月10日に「神奈川朝鮮学園に通う児童・生徒に対して、他の外国人学校に通う児童・生徒と同様に、補助金を交付することを求める会長声明」を発出し、2015年6月11日に「横浜市及び川崎市に対し、学校法人朝鮮学園に対する、補助金予算の執行停止及び予算の減額の措置を見直すことを求める会長声明」を発出した。
前者は、2012年度をもって打ち切られた神奈川県の学校法人神奈川朝鮮学園(以下、「朝鮮学園」という)に対する年間約6300万円の運営費補助金の代償として、2014年度から開始された外国人学校生徒等支援事業に基づく交付金の適正な実施を求めるものであり、後者は、横浜市に対しては2013年度から凍結されている朝鮮学園に対する補助金予算の執行を求め、川崎市に対しては学園及び保護者に対する学費等補助金の交付額を2012年度以前と同額程度にまで戻すことを求めるものである。
この点、神奈川県は、2014年11月から外国人学校生徒等支援事業に基づく外国人学校児童・生徒学費軽減事業補助金の交付を実施したものの、同交付額は以前より低額にとどまっており、横浜市及び川崎市は、現在も、当会声明が求めた適正な補助金交付を実施していない。
2 かかる状況において、本年3月29日、文部科学省は「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」と題する通知(以下「本通知」という)を発出した。
本通知は、「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」との政府認識を前提に、そのような朝鮮学校の運営にかかる特性を考慮した上、朝鮮学校を認可している北海道外1都2府24県知事に対して、「補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施」を求めるとともに、本通知を域内の市区町村関係部局に対しても周知するよう求めるものである。
3 かかる通知は、各地方自治体により実施されている朝鮮学校への補助金交付を抑制する効果をもたらしかねないものであり、極めて問題があるといわざるを得ない。
そもそも、朝鮮学校に係る補助金交付は、子どもの教育を受ける権利や、教育における機会均等・財政的援助・文化的アイデンティティの尊重等を実質化するために行われている措置であり、そのような補助金交付は、教育上の観点から客観的に判断されるべきものである。核実験や拉致問題等の国家間の問題を、それらについて何の責任もない朝鮮学校の児童・生徒に対する補助金交付と関連づけ、その抑制の理由とすることは、憲法26条、子どもの権利条約28条、29条、30条等に違反するものである。
また、本通知に記載されている政府認識は、朝鮮学校に在籍する児童・生徒については学費の補助金交付に関し別異の取り扱いをしてもよいかのような印象を与えかねないものであり、本年6月3日に公布・施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」で許されないとされている差別的言動を、政府自らが助長するおそれもある。
4 そこで当会は、政府に対し、本通知の撤回を求めるとともに、神奈川県・横浜市・川崎市に対し、本通知にかかわらず、朝鮮学園に通う児童・生徒の教育を受ける権利の保障が実質化されるよう、以前に交付されていた金額と同額程度の適正な補助金を交付するよう求める。
2016年(平成28年)8月17日
神奈川県弁護士会
会長 三浦 修
千葉県弁護士会 2016・8・23
朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明
声明の趣旨
当会は、
1 文部科学大臣に対し、2016年3月29日付「朝鮮学校にかかる補助金交付に関する留意点について(通知)」の撤回を求める。
2 朝鮮学校に対する補助金の交付を現在停止している地方公共団体に対し、憲法や条約上の子どもの権利に配慮し、補助金を交付することを求める。
3 朝鮮学校に対する補助金の交付を現在行っている地方公共団体に対し、補助金交付の継続及び憲法上や条約上の権利に合致した運用の改善を図ることを求める。
声明の理由
1 文部科学大臣は、2016年3月29日、「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」(以下「本通知」という)を都道府県知事宛に発出した。本通知では、「朝鮮学校に関しては、我が国政府としては、北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重視し、教育内容、
人事及び財政に影響を及ぼしているものと認識しております」とし、「朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討とともに、補助金の趣旨・目的にかなった適切かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施」を求めている。
本通知に先立つ2015年6月25日、自由民主党北朝鮮による拉致問題対策本部は、「対北朝鮮措置に関する要請」の中で「朝鮮学校へ補助金を支出している地方公共団体に対し、公益性の有無を厳しく指摘し、全面停止を強く指導・助言すること」を提言し、続いて、2016年2月7日、自由民主党は「北朝鮮による弾道ミサイル発射に緊急党声明」(以下「緊急党声明」という)を発出し、上記提言を速やかに実施するよう求めている。
その緊急党声明から2か月足らずで文部科学大臣は本通知を発出したのである。
本通知を受けて、新年度から補助金の交付の一部もしくは全額の停止することを表明している地方公共団体があり、各地の朝鮮学校に多大な影響が生じている。
かかる経緯に鑑みれば、文部科学大臣の本通知は、本来各地方公共団体の判断と責任において行われるべき補助金の交付について、外交的な理由により各地方公共団体による朝鮮学校への補助金交付の停止を促すものと言わざるを得ない。
2 すべての子どもには、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする権利が認められ(憲法26条第1項)、各種学校への補助金の交付もかかる学習権を実質的に保障するものである。そして、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)13条はすべての者の学習権を認め、無償教育を求めている。
朝鮮学校においては、児童・生徒の国籍は朝鮮籍、韓国籍さらには日本国籍と多様であり、また、朝鮮語により教育を行い、朝鮮民族の文化、歴史を教えるという特徴はあるものの、学習指導要領に準じた教育が行われている。
それにもかかわらず、朝鮮学校に通う児童・生徒には関係のない外交問題を理由として朝鮮学校への補助金交付を停止することは、かかる児童・生徒たちの学習権を侵害することはもとより、憲法14条、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)、子どもの権利に関する条約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)が禁止する不当な差別に該当する。2014年8月に採択された人種差別撤廃条約の最終見解においても朝鮮学校に対する補助金交付の停止等について「在日朝鮮人の子どもの教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する」との指摘がなされている。
3 特に朝鮮学校については、朝鮮半島が日本国により植民地支配されたときに朝鮮半島から日本国の産業のために移住させられた人々が、戦後、朝鮮民族の言葉、文化、歴史を子孫に残すために作られたという経緯に思いをいた
すことが重要である。
もとより民族教育は子どもの権利に関する条約30条においても保障されているところであり、朝鮮学校についても「民族教育を軸に据えた学校教育を実施する場として既に社会的評価が形成されている」学校であるとされている(大阪高判平成26年7月8日)ところであるが、朝鮮学校における民族教育についてはこのような歴史的視座を切り離して考えることはできない。
4 何より忘れてならないのは、朝鮮学校に対する処遇の問題は、北朝鮮の問題ではなく、日本国内の人権問題であるということである。とりわけ朝鮮籍、韓国籍を有する方に対するヘイトスピーチが拡がっている現状において、政府が本通知を行うことは、朝鮮学校に通う児童・生徒たちに日本社会からの疎外感を与えるとともに、かかる人権侵害行為を助長する可能性があり、到底容認できるものではない。このような展開は、先般成立したいわゆるヘイトスピーチ解消法の趣旨にも反しているといえる。
5 以上の点を踏まえ、当会は、文部科学大臣に対し、本通知の撤回を求める。
そして、千葉県ほか既に朝鮮学校に対する補助金交付を停止している地方公共団体に対し、上記憲法上の権利及び条約の趣旨に配慮して補助金を交付することを求めるとともに、現在補助金を交付している地方公共団体に対し、国家間の外交問題と朝鮮学校に対する補助金交付を安易に結びつけることなく、補助金の交付を継続すること、憲法上の権利及び条約の趣旨に合致した運用の改善を図ることを求めるものである。
2016年8月23日
千葉県弁護士会
会 長 山 村 清 治
和歌山県弁護士会 2016・9・9
「朝鮮学校に係る補助金交付に対する留意点について(通知)」の撤回を求めるとともに、学校法人和歌山朝鮮学園に対する補助金の適切な交付を求める会長声明
2016年(平成28年)9月9日
歌山弁護士会
会長 藤井 幹雄
1 馳浩文部科学大臣(当時)は、2016(平成28)年3月29日、朝鮮学校をその区域内に有する都道府県の知事に宛て、「朝鮮学校に係る補助金交付に対する留意点について(通知)」を発出した。同通知は、朝鮮学校に関し、「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が…教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」という政府の認識を示した上で、各都道府県知事に対し、朝鮮学校への補助金交付について、「朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討」や「補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保」などを求めるとともに、域内市町村関係部局への周知を求めるというものである。
上記通知は、日本国と北朝鮮との関係、北朝鮮と朝鮮総聯との関係という、朝鮮学校の子どもたちと何ら関わりのない専ら外交問題・政治問題を理由に、朝鮮学校に対する各都道府県の補助金交付に事実上圧力をかけ、これによって各地方自治体における補助金停止を強く促進する効果をもたらしかねないものである。現に東京都をはじめいくつかの地方自治体において、朝鮮学校への補助金の交付を取りやめる動きがあることが報道されている。
2 朝鮮学校に在籍する子どもたちは、他の子どもたちと同様、日本国憲法第26条1項、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第13条、子どもの権利条約第28条に基づき、教育を受ける権利が保障されている。そして、母語教育・民族教育を受ける権利は、市民的及び政治的権利に関する国際規約第27条や民族的、宗教的、言語的マイノリティに属する権利に関する宣言、あるいは子どもの権利条約第30条によって保障されている権利である。
この点、日本に生きるマイノリティの子どもたちの教育状況に関しては、子どもの権利条約とあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の履行監視機関が懸念を示し、適切な措置を執ることを日本政府に勧告してきたところでもある。
それにもかかわらず、朝鮮学校の子どもたちと何ら関わりのない、専ら外交問題・政治問題を理由として、朝鮮学校のみを対象として補助金の不交付や交付の留保をすることがあれば、それは、朝鮮学校に在籍する子どもたちの教育を受ける権利を侵害するものにほかならない。また、日本国憲法第14条1項等に定める平等原則に反する。
3 学校法人和歌山朝鮮学園に対しては、これまで毎年和歌山県と和歌山市から補助金が交付されているが、上記通知によって、今後、和歌山県や和歌山市からの補助金が交付されないことになれば、上記憲法や国連人権規約等に反し、和歌山朝鮮小中級学校に通う子どもたちの教育を受ける権利を実質的に侵害することになる。
4 よって、当会は、文部科学大臣に対し、上記通知を撤回するよう求めるとともに、和歌山県及び和歌山市に対し、学校法人朝鮮学園に対する補助金について、上記憲法及び国連人権規約等の趣旨に照らし、適切に交付されるよう求める。
3・29通知およびそれへの対応状況等の調査の即時撤回を求める要請書
文部科学大臣 松野博一様
朝鮮学校への公的助成を求める連絡会・東京
9月2日の報道によれば、今年3月29日に文部科学省から朝鮮学校を認可する自治体にあてた「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」(27文科際第171号平成28年3月29日、以下「3・29通知」)に関して、あらためて朝鮮学校への補助金支給が適正に執行されているかを当該自治体に確認する「3月29日付け通知に関する対応状況等の調査」を8月から行っているとのことである。また、調査のみならず、調査結果を公表することも検討しているとあるが、これらを鑑みるに、当該自治体による朝鮮学校への補助金支給を問題化する意図を感じさせるものであり、いかに「調査は朝鮮学校への補助金の停止や減額を促す意図を持つものではない」(9月2日文科大臣記者会見)といったところで、実際的には当該自治体に対する圧力となることは明白である。
事実、3・29通知後、一部自治体ではすでに朝鮮学校への補助金支給を停止する等の動きがでてきているが、そもそも自治体の権限に抵触しかねない内容の通知を出すことは地方自治の観点からみても問題があり、なおかつ、異例ともいえる短い期間のうちに当該自治体に対し実施状況の調査結果を求めることは、自治体への圧力をより強めるものといえる。
朝鮮学校への補助金停止に関し、すでに日本弁護士連合会をはじめとする11の弁護士会および弁護士連合会が声明または警告書を発表しているが、「子どもの教育を受ける権利とは何ら関係を持たない政治的理由により補助金の支給を停止することは、朝鮮学校に通学する子どもたちの学習権の侵害につながるもの」(日本弁護士連合会会長声明2016・7・29付)であり、「朝鮮学校に通う子どもたちが、合理的な理由なく他の学校に通う子どもたちと異なる不利益な取扱いを受けることは、憲法14条などが禁止する不合理な差別的取扱いに当たり、憲法の理念を反映させた教育基本法4条1項の教育上の差別禁止の規定にも反し、我が国が批准する国際人権(自由権・社会権)規約、人種差別撤廃条約及び子どもの権利条約が禁止する差別にも相当する」(同声明)ものである。
文科省による今回の措置は、朝鮮学校への補助金支給に対する自治体への圧力となることが明白なものであることから、その影響は深刻なものであり、わたしたちは、あらためて文科省による3・29通知およびそれへの対応状況の確認調査の措置に対し強く抗議するとともに、即時撤回を求めるものである。
2016年9月9日
*東京朝鮮高校生の裁判を支援する会のHPより転載
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