朝鮮学校における教育の情報化 ②
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もくじ
「マニュアル化」から「臨機応変な」の時代へ
インタビュー金燦旭先生神奈川朝鮮中高級学校教務主任
IT化とICT化の違い
先生には昨年十一月、エレベーターロボット競技会で「株式会社ナリカ賞」を受賞したときにもお会いしました。今回は、生徒たちの日常生活で、授業で、学校の教務で、情報化がどれくらい進んでいるのか、そして今後の展望などについて聞きたいと思います。まず初めに、日常生活で生徒たちは情報にどのように接しているのでしょうか?金燦旭教務部長・生徒たちは現在、家庭にコンピュータがあるのは当たり前で、学校でもスマートフォンを持っている比率が非常に高い状況です。ではそれをどのように使っているのかというと、自分の趣味、音楽を聴いたりゲームをしたり、あとは友達との連絡手段として使っています。それが有益なこともあれば、好ましくない方面で使われることもあります。実際に学習にどれくらい活用されているのか、現実的に有効に使われているかというと、そうでないことが多いと思います。学校で調査しようという課題が出れば、インターネットを使って調べ、まとめる事は出来ますが、まだ自分から勉強に積極的に使っていこうとか、いい情報、有益な情報があるからそれを今の社会の現象を理解するために活用しようとかいうふうにはなっていないのが現実です。このような現実をどう変えていくのかが、課題だと考えています。
これまでも教育のIT化などを唱えてきましたが、これには二つの側面があります。一つはデジタル化しようということ、紙を使わないでデジタル化して便利に使っていこうということです。もう一つはIT機器を駆使できる能力を持とうということでした。しかしこれからやろうとしているのは、情報をいかに有益に利用するのかということです。
IT化はいつごろから始まったのでしょう?教務部長・一九八六年から「情報」科目を取り入れるなど朝鮮学校の取り組みは早い時期から始まっていたのですが、中でも神奈川は積極的に取り組んできました。九〇年代以降のインターネットの急速な普及を受け、九五年には、それまでのプログラミング授業から、ウィンドウズのワードやエクセルの使い方を優先させた授業に切り替えました。一九九八年には教員たちが自分たちで専用線を引いてサーバーを設置し、常時接続環境でインターネット及びファイルサーバーの利用を開始しました。
二〇〇〇年度に教育の情報化計画を立案して、学校創立五〇周年を迎えた二〇〇一年には英語教育と情報教育を学習能力向上の柱に位置付けました。この年に最新のコンピュータを導入し、コンピュータ室をリニューアルして、「情報」授業の質を向上させました。
二〇〇三年には、授業案を電子化し、全教員が授業でIT機器を利用することを目標に掲げるとともに、中級部二年から高級部三年までの五年間の情報教育カリキュラムを作成して実践していきました。本来のカリキュラムで「情報」は、中級部では二、三年、高級部では一年で必修科目、あとは選択科目になっています。けれど神奈川では、中二から高三まで全生徒が週に一回は「情報」の授業を受けることになっています。高級部二、三年生の理系のクラスではプログラムやネットワーク構築の授業を、文系のクラスでは美術や音楽の科目でコンピュータを使って映像や音楽を制作する授業をしています。商科クラスの生徒たちはビジネススキル、ワードやエクセル、パワーポイントを使いこなせるようにしています。このころ、学期に一度、教員たちのIT講習会を行っていました。二〇〇六年以降はeラーニング(インターネットを利用した学習形態)、電子教材の共有を進めるためにMOODLE(オンラインで授業を行うために開発されたシステム)の導入や電子教材の共有を推進し、Hot Potatoes(Web上で動く練習問題を簡単に作れるソフト)などを利用してネット上でできる問題集の実用も始めました。
こうして精力的にIT化を進めてきたのですが、五~六年前から教員たちの間で、IT技術の導入が生徒たちの学習能力につながっているのかと疑問視する声が聞こえるようになりました。まさにそんなときに教育のICT化が提案されました。私たちがこれまでやってきてぶつかった壁を乗り越えるためには、これからやろうとするICT化こそが必要なのだと考えています。
教育のICT化について少しずつ異なった解釈があるように思います。いままで取り組みに消極的だったところでは、資料をデジタル化して子どもたちに見せることがICT化だと思っているようです。しかしそれは違います。今社会が大きく変わりつつあるのです。ドイツでは第四次産業革命の到来だとして、十年前から社会の要求にこたえられる人材の育成のためICT教育に取り組んでいます。
高度成長の時代、産業の主流は同じ製品を大量に生産することでした。そんな中で指示されたことを間違いなく、かつスピーディにしっかりと行えるマニュアル化された人材が求められました。学校では学んだことを早く記憶し、マニュアルに沿った模範解答を出せる人材を育て、受験戦争がそれに拍車をかけました。ところが今日、コンピュータは肉体労働だけではなく、人間の領域とされてきた認知能力を必要とする複雑な仕事にまで踏み込んできています。そんな中で求められているのは、これまでのようなマニュアル化された人材ではなく、創造性や想像性を持った、多様で、臨機応変に対処できる思考力をもつ人材なのです。そのためには教育が変わらなくてはなりません。講義式の一律な授業からアクティブに学ぶ授業に移っていかなくてはならないのです。生徒たちが能動的に参加する授業をするうえで、iPadなどのIT機器が果たす役割に注目すべきだと思います。
ICT教育が目指す授業
プロジェクターに写ったものを全員が見るというのは、全員が同じペースで認識するということです。ところが、それぞれが機材をもってそれを見ながら、一〇分間、隣の人と話し合いなさいというと、自分のペースで学ぶことができます。わからないときはもう一度見直す時間的空間も作れます。そのうえでそれぞれの話し合いの結果を発表して、全員で議論してさらに学びを深めることができます。そのためのツールとしてiPadなどのIT機器は非常に有効です。
ICT教育としてやりたいことはたくさんあるのですが、今はできることからやっていくことにしています。例えば、理系クラスで、次の授業の時間までにネット上にアップした教材の内容を整理してくるよう課題を出します。そうして生徒たちが内容を把握したうえで授業に参加して、皆でさらに学びを深めていく授業をすることがあります。こういう授業を「反転授業」と言います。昔はこういう授業のための教材があまりありませんでした。ところが今はいいものがたくさんあって、わざわざ私が作る必要もありません。これまでは生徒たちが教室に座って、教員の話を聞くところから授業が始まりました。そういう状態で、一生懸命聞いている生徒でもスイッチが入るのに一〇~一五分かかります。ところが反転授業では、生徒たちが「これを聞きたい」という状態から始まります。教員もどんな質問が出るかわからないので、お互いワクワクして授業が始まります。SNSを通じてこの部分がわからなかったという質問が生徒から来て、それに答えることもあります。一例にすぎませんが、今やろうとしているICT教育が目指す授業ではないかと思っています。
もう一つIT機器の有効な点は、記録を残せるし、どこでも使えるという点です。家で机に向かわなくても通学電車の中で見ることもできます。使えば使うほど役に立ちます。
デジタル化の時代は終わった
教務部長・若いころはこういう流れで授業をして、この質問を投げればこういう答えを返してという授業案をたくさん作りましたが、経験を重ねるにつれて、生徒たちの反応を見ながら少しアレンジして授業を進めたりするようになります。そうなってくると、始めの頃の授業は何だったのだろうと考えるようになります。思った答えが返ってきたから理解していると言えるのだろうか?生徒たちが思考する空間を作っていただろうか?と。
機材をうまく使えるから教育のICT化がうまくいっているというわけではありません。ICT教育を高いレベルで実施するには、ある程度の経験と授業力が必要です。教員が目指す、やりたい授業があって、それを実施するためには何をどう使えばいいのかという発想で、様々なIT機器を活用していくという態度が大切なのです。わが校の教員たちはこれまでの蓄積から、デジタル化自体に意義があるとは思っていません。IT技術をどのように使えば子どもたちに刺激を与えられるだろうかといつも考えを巡らせているのです。
教育のICT化はデジタル化ではありません。デジタル化の時代は終わりました。ラーニングが大切なのです。
ICT教育はまだ始まったばかりで、今方向が示されて、それに沿った計画を立てている段階です。何よりもIT機器が必要になります。理想は一人一台なのですが、今のところ、学校用のタブレットはまだ一台もありません。ところが授業では八〇%ほどの先生がスマートフォンやiPhoneを利用しています。持っていない生徒には教員が準備するようにして。私も使っていますし、音楽の授業では音楽を制作したり、美術の授業でも写真を撮ったりして利用しています。中二、中三では授業のはじめに教員が作った十分ほどの動画を、それぞれが見たうえでわからないことを質問したりする授業をしています。英語の授業でも使っています。数学で数式を解くときなどは速度がそれぞれ違うので、黒板で一律に学ぶよりも効果的です。
校内では無線LANが使えるのですか?教務主任・無線LANは使えるのですが、まだ生徒全員に対応できるようなものではないので、それを含めて現在変えていく計画を立てています。現在は授業の時に教員がルーターを接続して使えるようにしています。
価値ある情報の割合が、能力の差に
そうして授業で使っていても、生徒たちは授業以外のシーンで積極的にIT機器を勉強に活用しようとしない?教務部長・これから能力があって伸びる人は九〇%の価値ある情報と、一〇%の使えない情報に接するが、ほとんどの人々は一〇%の価値ある情報と九〇%の価値のない情報に接するという言葉を聞いたことがあります。情報のシャワーの量は同じなのに、その内容に差があるということです。今現在私たちはまだ、生徒がより多くの価値ある情報と接するように持って行けていません、機器は使えるのに。まだ価値ある情報の探し方を十分示せていないということです。
ICT教育で先を行っている日本の学校の授業参観に行ったのですが、やはりその部分での生徒間の差が大きいと言っていました。IT機器を扱う時間はこれまでと変わらないのに、その間にどの程度有益な情報に接しているのか、その履歴を見れば違いは一目瞭然です。有益な情報をより多く得られるようリードしていけば、様々な変化が起きてくると思います。
むつかしいですね。生徒たちの興味の矢印の方向をかえるということですよね。教務部長・現在生徒たちが何かに強い関心をもってIT機器を使っているかというと、そうでもないと思います。例えば私は卓球部の顧問を務めているのですが、自分のプレイの映像を撮るのに使っています。生徒たちは映像を見て、自分のプレイを分析して、納得します。そういう使い方を示すことが大切です。様々なシーンに合った効果的な使い方を示して、生徒たちが能動的に、自分で調べて学ぼうと思うように変えていけるかどうかがICT教育の焦点ではないかと、私は思っています。
生徒たちがそれぞれ自分に合った速度で学んで、チームで論議するという勉強方法で生徒たちは変わりますか?教務部長・生徒たちのモチベーションが変わります。今、多くの学校では毎日四五分授業を六時限実施しています。その間、先生の話をただ聞いて過ごすのはかなりの負担です。本当に六時間やらなくてはいけないのか、少ない科目をじっくり勉強した方がいいのではないかと思うのですが、まあそれはそれとして。学習の方法と定着率をモデル化した平均学習定着率調査によると、世界中の教育にかかわる多くの人たちが自らの体験から、アクティブ・ラーニング(Active Learning能動的な学習)を増やすことで学習の定着率が上がると感じています。アクティブ・ラーニングには、問題発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、教室内でのグループディスカッション、ディベート、グループワークなどがあります。つまり自分の意見を述べて議論したり、人に教えて自分の知識を確信したりする学習法です。この分野でウリハッキョには昔から「인조학습(人組学習)」「분조학습(分組学習)」というグループ学習をしてきたという強みがあります。
神奈川では着実にIT教育からICT教育に移行して行っているということですね。教務部長・そうですね。今やっていこうとしているところですね。教室で無線LANを皆が使えるようになって、学校のiPadが数十台準備され、自由に使っていいとなれば、ウリハッキョの先生の半数以上はすぐにでも利用すると思います。
神奈川の先生たちは経験年数が長いのでしょうか?教務部長・そういうわけではないのですが、経験を積んだ先生の中にいい授業をする先生たちがたくさんいるので、若い先生たちも刺激を受けているようです。わからないことはいつでも聞ける環境がありますね。ICT教育に対する関心は特に高いです。
ICTへの移行がむつかしい科目はありますか?教務部長・ どう使うかという問題はありますが、導入が難しいということはないのではないでしょうか? ITを導入した当時はすべて手作りだったので、教材を作るのに、こんなに手間がかかるのかと思いながらやっていた時期もありました。その時は自分が作って全国のウリハッキョに送ろうと思っていました。授業案も作るのが大変だから、いいものを作って公開しようと思ってデジタル化を進めてきました。でも今はいろいろなアプリもあるし、ネット上に良い教材がたくさんあります。どんな授業をしたいのか、生徒たちにどんな刺激を与えたいのか、考えれば資料はいくらでもあると思います。
学びを根本から変えるICT教育
IT導入以降の生徒の変化について教務部長・初期は新しいので興味津々でした。OHPを導入したときと同じです。その後パワーポイントの導入などは生徒たちのレベルアップにつながったと思います。ところが生徒たちが自ら学ぼうとするように引っ張ってこられたのかというと、そうではなかったと思います。教員はIT機器を使って流れに乗って授業をしても、生徒がそれについてきていなかったのではないかと考えています。それに気づけて良かったと思います。なのでこれからは違う方向で模索しようと思います。
子どもたちが受け身で聞くだけの授業ではなくて、能動的に学ぶ授業を増やしていこうと。様々な方法をもっと研究していかなくてはと思っています。音楽の時間に音楽を制作したり、美術の授業でタイムラプスで写真を撮ったり、表現したり、合作したり、共有したりするのが簡単にできるので、そういう利用方法を生徒たちにたくさん示したいと思います。例えばレポートを書くにしても、友達と同じ場所で同時に編集もできるし、家に帰ってからも相談しながらできますよね。あと、生徒たちが一斉に答えた内容を集計して、一人ひとりの答えを見られるというのは、いいですね。生徒がどこでつまづいているのかがわかるし、問題を解くときにどこで間違えたのかがわかります。例えば学友書房のワークブックがデジタル上にあって、それに対する生徒たちの答えをデータ化して分析するだけで問題点が浮上します。やれることはたくさんあります。
教育のICT化はやってもやらなくてもどちらでもいいことではありません。これまでのIT 化は、デジタルがいいかアナログがいいかということでしたが、ICT 化は生徒たちの学び自体を変えることなので、やるしかないのです。
変えるというのは難しいですね。特に教員は、生徒たちの疑問に対応できるのか、怖くないですか?教務部長・教員は絶対で、生徒は従うべきというこれまでの関係は変わります。質問が来れば「調べてみなさい」と言えばいいのです。どういうふうに調べればいいのか示したり、先生も調べるからあとで一緒にディスカッションしようという態度でいいと思います。今後神奈川朝高を卒業するときに、どのように勉強すればいいのかを学びましたという生徒を育てていかなくてはいけないと思います。そのためには情報の探し方、探した情報を判断する力を育てなくてはなりません。
去年の夏に各地のウリハッキョの先生が集まってICT教育に関する講習会があったと聞きました。その後も他校との連携は盛んなのでしょうか?教務主任・講習のあと、SNSを通じて引き続き情報交換をしています。講習会の内容は好評でした。それまでは不安も大きかったようですが、講習会を機にICT教育研究校の担当の先生たちが大変積極的に動いています。そこでもIT導入が大切なのではなく、学びを変えることが大切なのだということで一致を見ました。ICT教育では三つのテーマを示しています。第一が先ほどのアクティブ・ラーニング、第二が情報の共有です。学びの共有、人と接するうえでの共有、情報を発信するうえでの共有です。生徒数の減少が問題になっていますが、少人数クラス同士でICTを利用して一緒に授業をしたりすることも考えています。縮小のイメージをICTを利用して広がりのイメージに変えていけるのではないかと思います。三つめがSTEM(Science科学・Technologyテクノロジー・技術・Engineering工学・Mathematics数学、の頭文字)教育です。ICT教育の先進国では、科学技術教育に大変力を入れています。これを並行して進めないと出遅れてしまいます。前回もロボコンに参加しましたが、答えのないものに挑戦するなかでの学びが今急速に広まっています。
STEM教育とは
例えばこれはラズベリーパイ(Raspberry Pi、手のひらサイズのボードコンピュータ)と言います。これにインターネットを連結して、ここからキーボードに接続して、テレビにつなげればそのままパソコンになります。これを利用して電子工作ができます。液晶をつなげればタブレットコンピュータとして使えます。イギリスで開発されたこのラズベリーパイとマサチューセッツ工科大(MIT)が開発したスクラッチを使ってICT機器の初歩的な操作とプログラミング、電子工作を学ぶことができます。これがラジオになったり、カメラになったり、いろんなことができます。そういう授業をSTEM教育と言います。先進諸国では初級部の段階で導入しています。
生徒たちはこれを見たことはあるのでしょうか?教務部長・私は見せました。一緒にやろうと言いながら、なかなか時間がなくて。前回のエレベーターロボット競技会の準備もそうですし、教室を一つSTEM教育のためのラボにしようと考えています。いつでも生徒たちが触れられるように。日本でもSTEM教育が注目されて、各地に塾がたくさんできています。プログラミングはちょっとした間違いでだめになるので回数を重ねることが大切です。アイデアによってどんどん世界が広がります。そんな感覚を育てることが求められています。ほしいものがあって作るのではなくて、なんでも作れるから何を作ろう、面白いアイデアを出してみてというのが、今の要求なのです。そういうことを繰り返しているうちに、こういうふうにすればこういうことができるんだ、コンピュータってこんな使い道があるんだ、というスキルが積み重ねられていきます。決まったことを決まった通りにする人材はもういらないのです。それは機械ができるから。
同じことをよりうまくではなく、もっと高いレベルで新しい形にしてということですね。教務部長・プログラムをしていると、ちょっと工夫をすると、こういうことができるということが、分かるようになります。今は小学生もスクラッチ(初心者が最初に正しい構文の書き方を覚えること無く結果を得られるプログラミング言語学習環境)というプログラムを利用しています。
専門用語を使えなくても、言葉をコピー&ペーストしてクリックするだけで画像を動かしたり、色を塗り替えたり、音楽を奏でたりできるんですね。教務部長・スクラッチはネット上でプログラミングをしながら電子工作のようなことができます。一方レゴは機械的なものです。
理数系というわけではなく、イメージが大切になってきますね。教務部長・青商会がコリラボというのを去年も二回ほど開催しましたよね。わが校でも中学二年の生徒にスクラッチプログミングの教材を使って三十分くらい教えました。その後、無料でダウンロードできるので、あとは家でやってみなさいというと、一週間後には全員がマスターしてきました。科学祝祭では生徒たちがスクラッチ教室を開きました。大盛況でした。高校三年生は本格的なプログラミングを習った後に、簡単なゲームを作ったんですが、それなりにおもしろいゲームを作成していました。そういう風に今後は自ら学んで創意工夫できる人材が求められます。
良い授業・教材共有して、民族教育の魅力を発信
IT機器に慣れていない親世代は、子どもたちの世界が一挙に広がることに不安が大きいと思います。ニュースでIT機器をきっかけに犯罪に巻き込まれという事件もよく報じられているので。教務部長・生徒に一台ずつ持たせている学校では、管理を厳しくしているようです。中学ではSNSを禁止して、怪しいサイトには入れないように規制しています。高校生になると開放されますが、同時にモラル教育をしっかりしています。ウリハッキョでも最近は教員たちが敏感になっているので、ネットワークに一度公開されたものは半永久的に残ることなど、注意点を強調していますが、すべて管理できているわけではありません。でもだから使わせないというわけにはいきません。使いながら学んでいくことが重要です。海外では幼い時期に買い与えた時点で、子どもと親が約束をして利用時間などを制限しています。そういう意味では親と学校が協力して管理することが必要だと思います。今、学友書房でカリキュラムを作っていると聞いています。
私の理想としては、ICT教育を通じて生徒と教員と保護者が一緒に学びを楽しんで、ほかのウリハッキョともそれを共有して、皆で学びの楽しみを広げていければと思っています。二〇〇〇年代初めから、神奈川の先生に授業案や教材をすべてデジタル化するようお願いして、サーバーに蓄積していきました。ほかの学校と共有しようとしたのです。ところがそれができませんでした。こんなに一生懸命作ったいいものがあるのに、共有できないもどかしさを感じました。お互いに見せたくない独占欲のようなものもあったのですが、それは克服できました。でもIT環境が整備されていないのはどうしようもありません。もったいなかったです。各地の朝鮮学校には熱意のある先生、実力のある先生が大勢います。その成果を皆で共有して、スクラムを組んで、世界に魅力ある民族教育を発信したいと思います。日本社会では厳しい状況に置かれていても、世界の人はすごいことをやっていると驚くと思います。各地で学美(在日朝鮮学生美術展)とかサッカー、ラグビーもその魅力を発信していますが、勉強という側面ではまだ弱いと思います。私は学びを発信してウリハッキョの魅力を多くの人に知ってほしいです。小さな学校では専門の先生がいないかもしれないけれど、そんな生徒が神奈川の物理の授業をネットで見たら面白かったと言えるような、いい学びを共有してウリハッキョの良さを発信したいと思います。
金燦旭・一九六八年二月生まれ/南武初級学校卒、神奈川中高、朝鮮大学校理工学部/一九九〇年~神奈川朝鮮中高級学校教員36